君がいるから
柔らかな指の腹が濡れた筋を拭う。頬を滑る度にくすぐったさが残って、瞬きが増える。
「そろそろ、戻るか。そんな薄着では風邪を引く」
「……うん」
今一度残る濡れた箇所を拭って、そうして温もりは離れた。まだ目に名残があって、手の甲で数回擦る。顔を上げると、ジンが行くか――っと踵を返そうとする。私もそれに続いて振り向こうとした時だった。
ぐいっ――と腕を突如後方へ引かれる感覚に、思わず声を上げる。いきなりの事で驚いた体は後方へよろめき、転びそうなのを何とか踏みとどまった。
「な、なに?」
さっき解放されたばかりの腕にまた圧迫感があって見遣ると、私よりも白い肌の手の甲が。徐々に手の甲から辿っていき、視線を上げた先にいた人物の姿に驚き目を見開く。
「レイ!?」
そう、そこにいたのはレイで。だけど、そのレイの表情は眉間に皺を作り、私ではなく鋭い眼差しでジンを見据えている。
(どうして、ジンを睨んでるの!?)
ジンを見遣ると、突然現れたレイに驚いているよう。一言も発さずに、ただ睨み続けるレイに私達2人は困惑。意を決して私が口火を切る。
「レイ? えっと、どうしたの? 散歩とか?」
拍子抜けするような私の問いかけに、鋭い視線を今度は私へと向けられてしまう。碧の瞳は怒気を含んでいるかのように思えて、目を合わせることが怖く感じてしまい、視線を逸らした。すると、レイの細い腕の何処にこんな力がと思える程に握り緊められ、苦痛の声が漏れる。
「レイ、離してやれ。あきなが痛がってるだろ」
「…………」
「レイ」
もう一度、ジンが私の腕を掴んだままのレイの腕に触れて離すよう告げる。それでも、レイは口を閉ざしたまま横目で睨んだ後、私の腕を強く引きながらその場を離れようとする。
「ちょっ、何処に行くの!?」
開けていく私とジンの距離。ぐいぐいと引かれていく最中、後ろを振り返る。
「ジン、ありがと! さっき言ったこと、本当に頑張る!! 約束は守るっ」
声を大にして言い放つと、ジンは片手を挙げて受け止めてくれた。また、寂しげな表情で――。何故、そんな顔をするのか、聞きたい。でも、今はまだ答えてくれないような、そんな気がした。