君がいるから
「レイ様、どちらへ?」
気づくともう城の中へと足を踏み入れていて、ずっと護衛してくれている騎士のシダイさんがレイへ声を掛けていた。シダイさんもまた、どうしたのかと困惑しているようで。それを無視して、レイはどんどん先へと進んで行く。私とレイの歩幅は全然違うから、小走り気味になってくる。油断したら、転びそうになる程。
「レイ様。あきな様が転んでしまいます。もう少しゆっくり――」
「ついてくるな」
とてもレイの声だと思えないくらいの低くて冷たい声。シダイさんも初めて聞いたのか、驚きと共に口を噤んでしまう。本当にレイに何があったのか――こんなにも近寄り難いレイ。初めて会った時とはまた違う雰囲気を纏ってる――そんな気がした。
「しかし、お言葉を返すようですが、自分はあきな様の護衛を」
「二度言わせるな」
こう言われてしまっては、シダイさんはレイの命に従うしかない。シダイさんは、私が不安がらないようになんだろう――微笑んで合図のように一度瞬きをしてから速度を緩め止まった。背後を振り向き見たら、シダイさんは掌を胸に当てて敬意を示す体位をとっていた。そうして、頭を上げたシダイさんと目が合い、私は会釈をしレイに引かれるがまま――その場を後にした。
急く速度は緩められることもなく、しばらく歩廊を行く当ても分からず進み続ける。小走りのままの私は次第に息が上がり、肩で息をするようになった頃。何度問いかけても答えないレイの背中に向かって、声を上げた。
「レイ!! いいかげんに腕離してっ。私が気に障るようなことしたんだったら、ちゃんと説明してくれなきゃ分からない!」
「…………」
「レイ!!」
腕を強い握力で握られたままだったからか、感覚も鈍く指先は冷たく白い。とにかく足を止まらせようと、自身の足に力を入れ踏ん張り腕を抜こうとしても、うまくゆかず。
「お願い、レイ。腕離して……痛い」
ダンッ!!
突然の引力と大きな物音に目を見開く。視界いっぱいに映るレイの顔。怒気を含んだ強い眼差しの碧い瞳。私の背中には冷たい厚い壁、顔の横にはレイの腕があって、私はレイと壁に挟まれている状況に変わる。それでもなお、腕は掴まれたままだ。弾んだ息が整う前に、口を開く。
「……レイ?」
「何なんだよ、あんた」
「え……?」
「むかつくんだよ」