君がいるから
まっすぐに私の目を見つめるレイの碧い瞳。いつもだったら――こんなに間近に端正な顔があったら、恥じらいのあまり熱が帯びていた。でも今は、真剣みを帯びたレイの瞳を目にしたら、そんなこと思う暇もなく暫く見つめ合う。どのくらいだったか、頬にあったレイの掌は離れてゆき、その行く先は私の背。冷たく固い壁から離され、今度は強い腕につかまる。少し息苦しく、レイの唐突な行為に必死についていこうとするけれど、それは無理な話で。私の肩に顔を埋めてしまうレイに、また戸惑う。
「レイ……?」
そっと声を掛けてみたら、レイの肩が反応を示す。
「力になれるか分からないけど、少しでも楽になれると思うから、話してみて――」
「あんたと会えなくなるのは嫌だ」
「へ?」
(会えなくなる?)
更に力が増して、レイの方へ引き寄せられる。背中にあるレイの掌の熱が伝わってきて。
「あんた、帰るのか……?」
「帰るって……どこに?」
「馬鹿か。自分の世界にだ」
「へ? いや……帰りたいと思ってはいるけど、今すぐ帰らないよ? っというか……帰り方がそもそも分からないのに」
会えなくなるというのは、この事だったのか――頭の中をいっぱいにしていた疑問は1つ消えた。だけど、また息苦しさが増してそろそろ限界だと思い、レイの背中を軽く叩く。
「これ以上は苦しい……から、とりあえず離して? ね?」
「やだ」
出た――レイのこの言葉。これはきっと、暫く続く可能性大。小さくため息が漏らし、背中に添えてあった掌をまるであやすようにリズムよく弾ませる。
「またかよ。餓鬼扱いすんな」
「一緒。だって、レイはやだ――って言ったら、なかなか言うこと聞いてくれないじゃない」
呆れたように息を吐き、何度か弾ませたり摩ったりする内に、レイの腕の力が抜けていく。
「落ち着いてきた?」
「…………」
「薄着だし体冷えてきたから、もう部屋に戻ろう。あぁ、それとジンにもお詫びしにいかなきゃね。レイのこと心配してるよ、きっと」
(それと、ジン達の力になると決めた。具体的な事、私は何をしなければいけなのか聞いておかないと)
1人考えていたら――弱まったと思ったのに、ここでまた息苦しさが戻ってきて、思わず声が漏れてしまう。
「ちょ……本当に苦しい……」
「あんたはこの状況分かってんのかよ」
状況とは何のことなんだろう――もう最早、疑問符しか浮かんではこない――。