君がいるから
* * *
「アディルさん。これから何処に行くんですか?」
歩廊にある大きな窓からは、暖かい太陽の光が差し込み、長い長い廊下を2人で肩を並べ歩いているところ。アディルさんと軽く部屋で朝食を取り、その後何処に行くとも聞かされないまま部屋を出た。
「あきなには、これから王とギルスに会ってもらわなければならない」
「おう……と……ぎ、るす?」
また聞きなれない言葉に私がきょとんとした表情を浮かべていると、アディルさんはくすっと小さく笑う。
「ギルスは7人いてそれぞれ役割を持ち、王と共にこの国を守っている。いわば王の補佐官であり、俺達はそんな彼等を老様とお呼びしている。そんなギルスをまとめ上げる人物――ギルスの長様と王が一度あきなと話をしたいと言われてね」
(王とギルスの長さん……どんな人達なんだろう)
「それから、ギルスの老様方は魔導師でもあられるんだ」
「まっ魔導師!?」
(ってあのゲームとかに出てくる…? 本当に世界が違うんだ。そんな人達と会うことなんて、一生ないことのはずだった)
「あーそういえば、王はあきなと歳も近いな。20になられたばかりだ」
「え!? 20歳で王様!!」
「王は13の時にその座に着いたんだ。でもこれは決して珍しい話ではないよ? 他国では9歳という若さで国を統一している所もあるくらいだからね」
(9歳――幼い子でも王様だなんて、すごいな。これから、こんな大きな国を守っている人達に会うってことは――)
「あきな?」
下方へ唐突に視線を落した私を、アディルさんは覗き込む。
「私は……一体どうなるんでしょうか。そんな人達と会うってことはきっと――」
その先を言わず立ち止まってしまった私は、スカートを固く握り締めた。すると、私の手の甲に暖かい手が重なる。ゆっくりと顔を上げたら、アディルさんが少し屈み私と同じ目線になっていた。
「安心して。俺が傍にいる」
彼はただ口にし、そして、私の手の上に重なっているアディルさんの手に力が込められた。表情はさっきまでの笑顔でなく、真剣みを帯びた瞳はまっすぐに私に向けられている。その瞳から――眼差しから逸らせない。そして、ふっと笑顔が戻り、重なっていた手が離れた。
「行こうか」
そう言い、歩き出したアディルさん。重ねられていた手を、残った温もりを確かめるようにもう片方で触れ、アディルさんの背中を見つめた。