君がいるから
* * *
長い道のりが終わり目的の場所へと辿り着き、昨日見たあの大きな扉の前に立っていた。
「ここだよ」
私は昨日の出来事が頭の中に駆け巡り、こくりと1つ生唾を飲んで一歩後退する。だけど私の心情とは裏腹に、扉がゆっくり開かれる――。
「あきな、さっ入って」
アディルさんの言葉を合図に小さく頷き、足をゆっくりと前へ踏み出す。その後ろからアディルさんも入り、静かに扉が閉められた。
「お連れしました」
アディルさんはそう言うと、私の背中に手を添えながら前へと進む。私は、正面が見られなくて下を向いたまま歩き、一歩前を行く足がある位置で止まったのを確認すると私も歩みを止めた。
「お待たせしてしまい、申し訳ございません」
「いや、よい。本題に入りたい所だが王がまだ来ておらん。まぁその前に、そなたの名だけでも聞いておこう」
私に問いかけられた声にビクッと体が震え、そのまま下を見続ける。
「あきなと言います」
代わりにアディルさんがそう答え、間髪入れずに冷たい低い声が間近で発せられた。
「自分の名前も言えないのか。口が利けない赤ん坊でもあるまい」
聞き覚えがあってふいに顔を上げたら、声の主と目が合ってしまい、私は目を大きく見開く。自分が立っているすぐ横に座っている人物…あの男が座っていた。
(何で……この人もいるの)
この場にいないだろうと思っていた人物が目の前にいることで、不安とあの時の恐怖が一気に押し寄せてきたと同時に、再び扉が開けられる音が背後から耳に届く。
「ジン、一体何をしていた」
1人の老人の声が、今入ってきたであろう人物に問いかける。カツカツと靴音が近づき、私の真後ろで足音が止まった。
「庭で寝ていた」
頭上から降ってきた声音、答えを返したこの人を恐る恐る肩越しに見上げた。
「――あっ」
その人を見て思わず小さいながらも声に出てしまい、慌てて口を両手で塞ぐ。けど、その人は私の声に気づき、漆黒の瞳の眼差しが落ちてきた。