君がいるから
* * *
「あなたはあの女の話を、何一つ信用していないな」
「そう感じたか」
「あなたの警戒のオーラが女が出ていくまで、肌にひしひしと伝わっていたからな」
この広い部屋にシャルネイ国国王ジンとギルスの長のみが残り、背を向かい合わせながら言葉を交わす。
「あの女には、何の力も感じないが?」
「だが分からぬぞ。『あ奴ら』の手下の可能性も十分にある。お主も分かってるであろう?」
ギルスの言葉の『奴ら』というのに反応を見せ、ジンはテーブルの上に置いた拳を爪が食い込むほどに握り締めた。
「あぁ、分かっているさ。奴らがしてることを――」
ギルスは外へ向けていた視線をジンへと移す。
「俺は許しはしない!」
更に力を込めて握る拳からは、ギリッという音が微かに鳴り、なおも力を込め続けるジン。
「あ奴らは人の心を持っておらぬ。利用出来るものは全て利用する、人の形をした悪魔……いや、それ以上か――」
「俺は必ずこの手で奴を――必ず!」
そう言い放ち、ジンは漆黒の瞳に強い決意を含ませて席を立ち、扉へと歩いていく。
「ジン、今宵――覚悟は出来ているのだろうな」
「あぁ」
互いに背中を向けたまま会話をし続ける。双方ともただ一点を見つめながら。
「みな、お主がこの世を変えてくれると信じている」
「……ギルス」
「なんじゃ」
「……俺は」
ジンは口を開きかけたが『いや、何でもない』と言葉を残し、この場を後にした――。
バタンっと扉の閉まる音がし、ジンの気配が無くなるのを確認し、ギルスは息を少し漏らした。
「また赤に染まっていくのだな」
そう言うと、晴れ渡る空には不似合いな赤オレンジに輝く月を見上げた後、目を閉じしばらく立ち尽くしていたのだった――。