君がいるから
(あーっ! もう私のバカ!)
心の中で叫び廊下を走る私は山梨あきな、17歳高校3年生。ほんのり明るく染めた茶色の髪はストレートセミロング、とりあえず二重瞼でちょっと茶がかった黒の瞳。ブレザーとネクタイは濃紺、グレーのチェック地スカートに黒のハイソを身に纏いながら、猛ダッシュ中。
「どうしよう! どうか、間に合ってー!!」
携帯で時間を確認して間に合うかどうか、必死に廊下を駆け抜ける。
「あーっもう! 父さんがいつもより早く帰ってくるのにー!! しかも『今日焼肉だぁ』だなんて言わなきゃよかった!」
傍から見た私の姿は、独り言を呟き頭を掻きながら階段を駆け下る姿は異様で、すれ違う数人の生徒達からの視線に気づかない私。そうこうしてる間にも下駄箱に着き、靴を履き替え外に出ようとした時だった。
「何だ、その頭!?」
背後から声を掛けられ、振り向いた先には同じクラスの。
「秋山!!」
由香と同様、中学からの同級生。唯一の男友達である秋山が驚いた表情を浮かべ立っていた。中学から、ずっと続けているバスケのおかげか身長も中学よりぐっと伸びてしまい、私と30センチもの差が出来てしまった。顔もそれなりに整っている――いわゆるイケメンらしくて、高校に進学して更に女子からの黄色い声援が増している。
「その髪、なんとかしたほうがよくね?」
「ぅええ!! そんなにすごい!?」
「うん、かなりな」
そう言われて、慌てて手櫛で髪を整える。
「何、そんなに慌ててんの」
「特売!」
「とっ特売? は? お前、何言ってんの?」
「近くのスーパーで特売があるの! カルビとかカルビとかカルビとか!」
「ってカルビのみかよ」
会話もそこそこに、くるっと秋山に背を向け、再び外に向かって走ろうと地を蹴る――。
「おいっあきな!!」
再度名前を呼ばれたおかげで、踏み切った足からガクッと力が抜ける。
「急いでるんだけどっ何?」
秋山が右手を顔の前まで持ってくると、ひらひらと揺らし口元が『ばーか』と動く。
「お前は何も持たずに学校に来てんのかよ」
「……はい?」
朝、学校にはいつも持って――。
「あー!!」
「阿保だろ」
阿保と言われて自分が悪いのに、秋山に対して膨れっ面を見せる。
「いたー!! 馬鹿あきな!!」
今度は聞き慣れた大きな声の馬鹿という言葉が、耳に突き刺さった――。