君がいるから
* * *
コツコツと鳴る3つの靴音を、通路に響かせながら歩く。私の隣にはアディルさん――その前方には。
「アディル。俺は持ち場に戻る。何かあればすぐに報告を入れろ」
「了解。長」
ふと立ち止まり、アディルさんだけに顔を向け2人で言葉を交わし合うと――アッシュさんは1人別の歩廊の奥へと行ってしまった。
これからあの人と2人になることもあるんだろう――そう思うと、不安しか生まれない。
「あきな」
頭上から声を掛けられ、ふと上を仰ぐ。
「不安?」
「え……あ……」
心の中で呟いた事を、そのまま言葉にされて目を見開きながらアディルさんを見つめたら口端が上がる。
「ずっと顔に書いてあるから。本当に元の世界に帰れるのかとか」
「えっと……」
「あとは、アッシュと2人になることが不安だ――とか」
(どうして……この人は簡単に私の心の中まで解ってしまうの?)
アディルさんの言葉に私は何も言うことが出来なくて、見つめていた視線を逸らして下方へ落した。そして静かな通路に私達2人は立ち、どれくらい言葉を交わせずにいたのか分からない。すると、両頬に温かくて柔らかなものが添えられた。
「あきな。何も不安や怖がることはない」
優しくて穏やかな口調、そして私の頬を覆う大きな温かい掌。彼は続けて口を開く。
「そう言っても、やっぱり思ってしまうよね。だけど……」
そこで途切れたかと思うと、くいっと上を向かされ赤い瞳と出合って吸い込まれそうになる。
「俺がついてる。何があってもあきなを守るから。だからそんな顔しないで、君は笑ってていいんだ。俺は何度だって言う、あきなの不安がなくなるまで」
「アデ……ィル……さ……ん」
アディルさんの言葉は、私の心の中に静かに染み込んでいきほのかに温かくなる胸。
『あきなを守るから』
たったその一言が、とても素直に嬉しく思えた。それはきっと、アディルさんの声――言葉だからかもしれない。
「笑って、ね?」
アディルさんはにっこり柔らかな微笑み、私にもそうして欲しいように呟く。その笑顔につられて、私も思わず頬を緩めた――。