君がいるから
2人で歩廊の真ん中で笑み合うと、アディルさんが何かを思い出したように、掌に拳をポンッと乗せた後、長くて綺麗な人差し指を立てた。
「城を案内しようか? ずっと部屋にいても退屈だろうし、城の中が分かっていた方が便利な場合があるから」
アディルさんの突然の思いつきに、お城なんてそうそう入れるものでもないし、今の今までの不安は何処へやら、胸が躍り始めた。
「はい! ぜひ、お願いします」
「よしっ! そうと決まったら……何処から行こうかな」
う~んと、目を瞑り考え込むアディルさんをじっと待っていたら、瞼を開き『うんっあそこにしよう』っと呟き、私の手を取る。
「俺のお気に入りの場所に行こう」
(アディルさんのお気に入りの場所?)
「おっお気に入りの場所って……ここですか?」
「そう、ここが俺のお気に入りの場所」
アディルさんが連れてきてくれた場所、そこは――。
「でも……ここって。厨房ですよね?」
キョトンとしている私の目の前では、慌しく料理をする人々の姿がある。
(でも何で厨房がお気に入りの場所?)
アディルさんの顔を見上げ首を傾げると、私の視線に気づいて眉を少し下げ苦笑する。
「ごめんね。今日忙しいんだよ。こっちにおいで」
アディルさんはそう言い、厨房から出て歩み出し、その場で呆けている私に手招きをし、案内されるがまま後をついて行く――。
「うわぁー! すごーい!!」
次に行き着いた先で、思わず声を上げてしまった。奥いっぱいまである長さのアンティーク調のダークブラウンテーブルと椅子。頭上には、大きな大きなシャンデリアが3つもあるダイニングなような所。
そのシャンデリアを窓から差し込む光が、キラキラとより一層輝かせていた。私は部屋の隅々まで見渡す。
(こんなに綺麗なんだぁ、シャンデリアって……。ここに来なかったら、一生縁なかったんだろうな)
「あきな。ここに座って」
惚けながらもアディルさんに背を支えられて少し歩んだ先で、アディルさんが椅子を引いてくれ、お礼を口にして椅子に腰を下ろした。そして、アディルさんは『ちょっと待ってて』と言い残し、また厨房の奥へと行ってしまった。