君がいるから


――数分経ち、アディルさんはトレーを手に持ち戻ってきた。

 トレーをテーブルに置き、私の前にカップとお菓子が入ったバスケットを置いてくれて、私の横に自分の分も用意すると椅子に腰を下ろす。

「城の案内をすると言ったけど、ちょっと休憩」

 私の方へ体を向け、長い足を組んで微笑むアディルさん。

「厨房に行ったら、甘いのを口にしたくって」

「アディルさんって甘いの好きなんですか?」

 私が問うと、アディルさんは既にお菓子を1つ口に運んでいた。

「甘ければ甘いほど好きだよ」

(何だか意外。逆に嫌いな印象なのに)

「意外って顔してるね。昔からよく言われるんだ」

「すみません、ちょっとだけ思いました……。もしかして、このお茶アディルさんが淹れてくれたんですか?」

「うん。甘くておいしいでしょ?」

 昨日飲んだ温かいお茶とは違って、今日はひんやり冷たい。甘くて、でもどこか安心する味。

「すごく……おいしい」

 満面の笑顔で言うと、アディルさんも一緒になって微笑み『これもおいしいよ』ってバスケットを私に差し出してくれた。中には形も様々で、クッキーやパウンドケーキも入っててどれを食べようか迷う。悩んだ結果、クッキーを手に取り口の中へ。

「……苺?」

 普段食べている苺とはちょっと違うような、でも濃厚でいて甘酸っぱい味、果肉がそのまま入ってるかのような触感。

「おいしい!」

「よかった。甘い物好き?」

「はい! 食べ過ぎて怒られる事あるんですけど」

 あはははっと笑ったけど、よく言われる人物の顔と声が頭に浮かんだ。

『姉ちゃん、食いすぎると太るぞ。俺より小さいくせに重さが一緒なんてありえねぇよ?』

『あんたよりまだまだ軽いわよ!』

『そんな鬼みたいな顔してっと彼氏どころか、男も寄り付かねぇーぞ』

(いつも、いつも些細ななんてことない事で、喧嘩になってたな)

 近いようで遠い思い出のように感じてしまう。

「あきな?」

「あっごめんなさい!」

(いけない! また沈んでた顔だったかな。帰れる方法だって絶対見つかる! そう信じてなきゃ)

 そうして、しばらく2人でお茶とお菓子を堪能した後、広いこの部屋から出てアディルさんにお城の案内をしてもらう為、長い長い歩廊を歩き始めた。

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