君がいるから
* * *
長い長い歩廊を歩き続けていた――。
(私が……やっぱり何か気に障ることでもやっぱり言っちゃったのかな)
図書室を出てからいくつかの部屋を回って案内して貰い、笑顔を浮かべて言葉は交わすものの、何処となくアディルさんの表情は、時折悲しげで重い雰囲気を纏う。私はそんなアディルさんの姿を目にし、自己嫌悪に陥っていた。
「あきな? 元気がないようだけど、疲れさせてしまったかな」
頭に数回、優しい手つきの掌が落され、身長の高いアディルさんを見上げて首を左右に振る。
「そっか。でも、今日はここでおしまいにしよう」
傍から離れ、大きな硝子張りの窓をゆっくりとアディルさんが開くと、そこから心地の良い風が流れ出て頬を触る。その風に導かれるように一歩一歩、窓へ近づくとそこには――。
地面に広がる、青々と茂る緑の絨毯。緑と緑の間には小さな色とりどりの花々、太陽の光が草花をより輝かせている。そして、空を仰げば一面青の世界が広がっていた。雲もゆっくりゆっくり何処かへと流れていく空には、今だ赤オレンジに輝く満月。
「気持ち良い……」
「城、皆の癒しの場所。昼寝したり、女の子達がお喋りしたりね」
「こういう場所……私も好きです」
笑みを浮かべて、アディルさんへ顔を向ける。
「よかった。来たい時は遠慮せずにいつでも言って」
再び私の頭に掌を乗せると、今度はクシャクシャと左右に動かした。柔らかい笑みのアディルさんの金髪が風に吹かれ、靡(なび)く度に綺麗な金の髪は輝いて見えた。
(本当にすごく綺麗な髪)
「何か付いてた?」
「へ?」
アディルさんの言葉に慌てて傍から離れたのはいいけど、恥ずかしくて一気に熱を帯びた頬を両手で隠すように覆った。私が慌てて離れた理由、それは――無意識にアディルさんの髪に触れていた自分に驚いたからだった。
(私一体何ということをっ)
「謝らなくてもいいのに」
「ごっごめんなさい……」
頬を覆い地面を見据えていると、クイッと頭に小さく引かれた感触が伝わって、顔を上げる。
「綺麗だね。俺とは違う色――茶がかった細い髪。それにとても、さらさらしてて触り心地がとても良い」
目を細めて私の毛先を少量束ねて指先で持ち、形の良い唇へと持っていかれ口付けられた。