君がいるから


 声がした方へ視線を移し見ると、目を細めてじっとり私を見つめる我が親友、由香の姿があった。

「由香!!」

「これ忘れてどうすんの! 高3にもなって鞄忘れるってどういうこと!?」

 由香が見慣れた一つの鞄を、呆れ顔の位置まで上げて言い放つ。

「ほら! 財布も入ってんじゃん。ったく、どうやって買い物するんだか……」

 自分の鞄を由香から受け取り、両腕で抱き締めた。何かと忘れ物したりどっか抜けている私と違って、中学からの親友はしっかり者で、こうやって私の世話を焼いてくれる。

「ありがとう! やっぱ持つべきものは由香だね」

「何言ってんだか。早く行きなよ、時間ないんでしょ?」

 由香に言われて時間を見たら、先ほどよりも針が大分進んでいた。

「あー本当だ! 由香ありがと!! 秋山もっ。じゃあね!」

 短くお礼を言ってから大きく手を振り、思いっきり地を蹴ってカルビを目指し走り出した。



   * * *
   


「騒がしい……」

「でも、あぁいう所が可愛いよな」

 2人は小さくなっていくあきなの背中を見つめ、由香はぼそり呟く秋山に視線を向け、秋山の頬が微かに赤らんでいるのを目にする。その秋山を見て、呆れた表情をまたも浮かべ由香は両腕を組む。

「それ、本人の前で言いなさいよ。告白しないわけ?」

「……まぁ」

「中学からでしょ? 鈍感なんだから、あの子。言わなきゃ分からないわよ」

 由香の言葉に、頬を人差し指で数回掻きながら一つ息を吐く秋山。

「とりあえず……今は部活に専念するわ。まぁ、言うのはそれから」

「それを何回聞いてきたことか。あんた、もうすぐ試合だっけっか」

「まぁな」

「あんなにちびだった秋山が、今やこんなに大きくなってさ」

「俺だっていつまでもちびのままじゃないっつーの。期待されてんだぜ?」

「期待ね~」

 由香はまだ微かに見えているあきなの後姿に視線を向き直し、少し切なげな表情に変わる。

「あきなもやりたいんだろうな。もう、今更って感じだろうけど」

「そんなに気にすることねーのに。昔の事なのによ」

「寄って集って女子に一気に攻撃されたら、あぁいう年頃にはね、きついわよ」

「年食ったような言い方だな、お前……」

「おばさん扱いしないでよ」

 由香は秋山の鳩尾に肘鉄を食らわせると、苦しげに顔を俯かせてた秋山を余所にあきなの姿を、見えなくなるまで見送った――。


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