君がいるから
再び静けさを取り戻してしまった広い部屋で、両腕を上げ体を伸ばす。先程圧倒された場所へと足を向け、扉を薄く開いて覗き見る。
「やっぱり、これはちょっと入りづらい」
あまりの広さに圧倒され、入ろうか入るまいかと全体を見渡しながら頭を悩ませる。
「あれ?」
何気なく目に入った白い棚の上に、クリーム色のタオルとその下に置かれた真っ白な布地。
『なんだろう』っと、タオルの下の布に触れ、広げてみる。
「わぁー、綺麗なワンピース」
とても柔らかい素材で、柄無しの少し胸元が開いたシンプルで真っ白な膝丈のワンピースに目を奪われた。
「もしかして、ジョアンさんが言ってた着替え?」
たしか、バスルームに案内される時、ジョアンさんはカートの下段の籠から布っぽいのを取り出していたようだと思い返す。
(こんなに綺麗なワンピース着ていいのかな)
またも、悩む種が増えてしまった。
(あぁ、でも……昨日もお風呂入ってないや。シャツだってこっちに着てから洗ってないし、肌だって汗でペタペタしてて、さすがに気持ち悪い)
「はぁー気持ちー」
猫足のバスタブにたっぷりと入れられたお湯に体を思いっきり沈める。
結局、悩んでいたことを汗でペタペタだった体と一緒に洗い流し、シャツも手で揉み洗って汚れを落とした後、温かなお風呂を堪能。元々お風呂に入るのが好きな私は、幸せな気分になっていて鼻歌まで歌ってしまう始末。そうして、気づけば部屋の窓に比べて小さな窓から覗く月を眺めていた。
「私、きっと帰れるよね」
強い輝きを放つ光に向かって呟く。そして一瞬、光が強くなり、大丈夫だと不思議と言ってくれているようなそんな気がした。
(それまで……私は、この世界で頑張って生きなきゃいけない。もう……泣かない)
だから、今――この時を最後にするから、今だけ思いっきり泣かせて。明日からは、皆にまた笑って会えることを信じて頑張るからと、頬を幾度となく流れ落ちていく雫が、湯の中に小さな輪を描く。胸元でギュッと誓うように拳に力を入れ、私は温かな湯に包まれながら咽(むせ)び泣いた――。