君がいるから
* * *
「シャルネイ国、国王。ジン=ルード=シャルネイ、前へ」
重く低い声の主に言われ、国王ジンは全身黒の肌着、全ての縁が金で出来ている甲冑を身に纏い、純白のマントを揺らしながら一つ一つ短い階段を上っていく。あたりは静けさが漂い、ジンの足音だけが響き渡った。
階段の一段ずつに整列しているギルスの老人達はジンの姿を口を閉ざし見据える。ジンは階段を上りきり、そのまま壇上を歩き進め、あるものの前で立ち止まった。
「ヴァイン」
ジンの目の前にあるもの――。太く、剣身の先には丸い真っ赤な鉱石が埋め込まれ、ジンの身長と同じ――もしくはそれ以上であろう重々しい剣が歪形な岩石に突き刺さっている。
ジンが剣の前に一歩、距離を縮めた瞬間――窓などない場所に風が微かだが吹き始めた。そして、手を伸ばし剣のグリップに触れ、グッと力強く握る。その先程までの緩やかな風が、一瞬にして吹き荒れ始めた。
「お前の力が欲しい! この国を……世界を守る為に」
ググッと拳、腕に更に力を込める――。
ゴゴゴッ!!
轟音と共に剣は台から引き離されていく。その場にいる誰もが、強風に自身を持っていかれまいと、必死に耐え腕で顔元を覆っていた。再び、ジンは甲に血管が浮かび上がる程の力を込め、一気に剣を引き抜いた――刹那。
剣身の先の真っ赤な鉱石が光り輝き、赤い光がジンを覆い尽くし、今まで吹いていた強風が突然収まり、辺りには静けさが舞い戻った。皆一様に赤い光に目を奪われ、そして息を飲む。
「契約を交わし始めたな」
ギルスの長がジンの姿を、目を細め見据えながらそう呟く。その背後にアッシュ――アディルが立ち並び、2人もまた我が君主の姿を見据えていた。
だが、アディル唯1人だけが眉間に皺を寄せ、自身でも何故だか分からないほど掌が汗ばむ。
それは……この場所に立った時から、言い知れぬものから怯えるように体が震えていた――。