君がいるから


   * * *


「ふぅ、気持ちよかったぁ。すっきり爽快」

 バスルームから出て、火照った頬を手で押さえながら、あまりの気持ちよさに肩から力が抜ける。

「このワンピースの布地、すごく気持ち良い。でも、1つ気になるのが、私のサイズって誰にも教えてなかった気がするんだけどなぁ」

 肌を纏う、ジョアンさんが用意してくれたワンピースは布地が滑らかで着心地もよく、とても軽い。そして何より、着てみて驚く程サイズがぴったりで。そこで、思い出すのはアディルさんのあの言葉。

「まっまさかね……」

 まだ濡れている髪をタオルで拭きながら食事をしたテーブルに近づく。そこに、ジョアンさんが残し置いてくれた水が入ったガラスポットを手に取り、コップへ注ぎ渇いた喉を潤す。
 ソファーに腰掛け、横に置いてある通学鞄を手に取り、ハンカチを取り出した。畳んであるハンカチを広げ、包みこまれている母さんの指輪を指先で持ち上げる。

「母さん。私、父さんとコウキの所に帰るその日まで、頑張る」

 まるで、母さんがそこにいるかのように言葉を指輪へ呟き微笑み、左中指に指輪を通す。これを身につけていたら、母さんが見守ってくれているようなそんな気がして、指輪をほんの数分眺めた。

「そういえば、何時くらいなんだろう? 時計ってこの部屋にあるかな?」

 食事もしてお風呂にも入って、何もやることがない。この部屋から出ちゃいけないから、手持ち無沙汰だ。あとは寝るしかないかもと思ったら、まだ寝るには早い気がするし、しかもまだ眠気など一切湧いて来ない。
 鞄に退屈しのぎになるようなものが無いか、鞄の中身をとりあえずテーブルの上に取り出す。

「財布、携帯、あぁ進路のプリント。あっウォークマン発見!」

 音楽を聞きながら時間を潰そう――そう思ったのも束の間。

「うわっ! 充電が……」

 電源を入れてもまったく画面には何も表示されず、バッテリーが限界を迎えている証拠。

「充電しないでギリギリまで放置してたから。しょうがない別の物は――」

 ガックリと肩を落とし、再び何かないかと探してみようとした時だった――。

「っ!!」

 突然襲ってきた熱と痛みが全身に伝わり、一気に震え出す。

「あっぁ……あつ……いっ」

 その熱の根源を指先から感じ、恐る恐る視線を動かし見ると驚愕する――。


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