君がいるから
「ん……んん」
(まだ暗闇の中……?)
そう思ったけど、さっきまでのあの嫌な感じはなく、重く感じる瞼をゆっくりと上げ開くが視界がぼやけていて、はっきりと現状を把握出来ない。
「冷……たい……」
今度は頬に感じる冷たさに、驚き目を見開いた。鮮明に映り出した光景に、両腕を着いて勢いよく体を起き上がらせる。視界の先に広がる空間は、見覚えがあることに気づく。長いテーブル、幾多の椅子、大きな扉が奥まった場所にある。天井まである大きな窓から注ぎ込んでいる、オレンジ色の強い光。
「ここって、たしか龍の間……?」
自分がさっきまでいた部屋ではなく、王様達と話し合いをした場所――龍の間。今までいた暗闇の空間から抜け出せたのはいいものの、何故ここに来たのか理解が出来ない。
チクッ
小さな小さな痛みに一瞬、顔が強張り痛みが走った左手へと視線を移し見る。指輪は淡く、弱々しくも未だに赤い光は残っており、まるで生きているかのように鼓動に似た光の動き。
「とっとにかく考えるよりも先に早く戻らないと。見つかったら大変なことになりかねない!」
瞬時に、アッシュさんの言葉が脳裏に浮かび、慌てて立ち上がり扉へと向かう。
――けど、ピタッと足を止め頭を抱えた。
「もっ戻り方が分からない……。昼間は緊張しすぎて道を覚えるなんて出来なかったから、戻る時に誰かに見つかって報告されでもしたら――」
どうしようっとその場でウロウロしながら考えるけど、早く戻らなければという焦りの気持ちが余計に自分で自分を混乱させ追い詰めていく――。
「何の力も持たぬ人間が、何故ここにいる」
背後から全身に鳥肌が立つほど冷気を含んだ重く低い声と共に、一瞬にしてこの空間が氷のように凍てつく。
「我の声が聞こえておろう。さぁ答えろ」
振り返れない――声が出てこない。手も足も震えて、今にも崩れ落ちてしまいそう――。
コツン コツン
声の主は一歩一歩私に近づいてくるのを靴音で感じ取る。
(逃げなきゃ、逃げなきゃ)
全身に警告をし始め、拳を握り締めて硬直していた足で扉へと駆け出した。
「我から逃げられると思うか」
一瞬にして1つの影が、私の目の前に立ちはだかる――。