君がいるから
Ⅳ.策謀


「お前にもう勝ち目はない」

 王様は相手を鋭く睨みつけ、グリップに力を込めて男に剣先をより近づける。

「契約をすませたか」

 男は自分に向けられている剣先に怯えることもなく、口端を上げて呟く。男の言葉に王様の眉間の皺は濃く刻まれる。

「――だが、その程度か」

 男の表情が変わったと同時に、柔らかく吹いていた風が嵐のように吹き荒れ始め、瞬時に後方へと体を向けて掌を王様の腹へ当てがっただけで、王様は吹き飛ばされてしまった。王様は柱に当たる寸前に足に力を入れ、踏みとどまる。

「っ……っつ!!」

 背に衝撃は無くとも腹を押さえ肩膝を地面に着き、苦し気な声が上がった。男は冷酷な表情――瞳で王様を見据え片腕を上げ、ぶつぶつと何か呪文のようなものを呟き続け、男の掌に黒い光り――煙のようにも見えるものが球体を作り上げていく。そして腕を伸ばし、球体を王様に向けた。

「まだまだ、弱いな。――つまらん」

「っ黙れ! っ……つ!!」

 更に大きさを増していく球体。剣を支えに立とうとした王様だったけど、先ほどの衝撃が影響しているらしく、再び膝を着く王様の姿を見かねた私は思わず叫ぶ。

「王様!!」

 叫んで王様の元へ駆け出し掛けた足は、男の視線――冷酷な瞳と合い、まるで金縛りにでもあったかのように動かすことが出来なくなってしまう。男は王様へ向けていた腕を下ろし外衣を翻して、私の方へ靴音を鳴らしながら一歩一歩距離を縮めてくる。

「やめろっ! そいつは関係ない、手を出すな!! 貴様の相手はこの俺だ!!」

 王様の叫び声が、広い龍の間に響き渡って消える。逃げようにも震えているだけで、足に根が生えたように前にも後にも動くことが出来ない――。

「我が怖いか。我を扇動させようとするその怯えた瞳――」

 男は氷のように冷たい手を私の頬へ伸ばしてくるのを、頭を左右に振る。

「いや……いやっ! 来ないで……触らないで!!」

 叫んだと同時に――指輪から赤い光が一気に溢れ出し、男の体を一瞬にして包み込む。

「な……に!? これはっ――」

 男の全身が赤い光に覆い尽くし、球体となった赤い光は徐々に小さくなり、そして粒の泡となって消えた――。


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