君がいるから
「消え……た」
周りを見渡し男の姿が消えたのを確認して、途端に膝の力が抜け地面に座り込んだ。まだ微かに体は小刻みに震えていて、それを抑えるようにギュッと両手を組んだ。
(怖かった)
口に出すこともない感情に、じわりと瞼が熱くなって力を入れ瞑る。瞳から流れ出ようとするのを必死で抑える。
「大丈夫か」
頭上から声が降ってきて、おずおずと見上げる。
「王、様……」
片手に剣を持ち、もう片方の手が私に差し伸べられ、漆黒の瞳で見下ろす王様がいた。
「……ありがとうございます」
微かに震える唇を開き、王様の手に触れゆっくり足裏を地に着けやわやわと力を込める。けれど、力がまともに入りきらない膝が折れ、硬い石の地面に再び落ちそうになった時――。
トクントクン
耳に静かに流れ込んでくる音が。
(あれ? 何だろう?)
少し身じろぐと冷えた耳元で何かに擦れる感触、背中にも布地から伝わってくるのは。
「どこか怪我でもしてるのか」
「え?」
また頭上から降ってくる声でふと見上げた先には、なぜか間近にある王様の端整な顔――。月の光に照らされる漆黒の瞳と髪。漆黒の瞳に吸い込まれそうになり、顔を逸らしたら自分の現状にハッと目を見張る。
「――の心配はなさそうだな」
「うわっ! ごっごごごごごめんなさい!!」
大声を上げながら慌てて後ずさり、王様から距離を取る。羞恥のあまり、あわあわと唇を震わせ、一気に熱を持った頬を掌で覆う。
(びっ……くりした。まさか王様に抱きしめられてるなんて! いや、元はと言えば私がふらついたりしたから、それを助けてくれただけであって、抱きしめるとかそんなんじゃ――)
「その元気があるなら、本当に心配は無用のようだ」
「何だか、すいません……」
突然の大声を出した私を顔を顰め耳を押さえながら見据える王様の姿に、肩を竦め謝罪の言葉を口にする。王様が龍の間を見渡し小さく舌打ちをする様子に、先程の男のせいか苛立っているのかと感じる。
「いや。――来たな」
「……来たなって?」