君がいるから


   * * *


 目の前にとてつもなく大きく、見上げなければ上の方まで見えないぐらいの高さの扉の前に立ってる。龍の間とはまた違う場所のようで、聞けば王様とギルスさん達が普段使用している場所だそう。

(この扉って簡単に開くのかな)

 少し呑気に扉を見つめながら心中で呟く。龍の間の時も感じた全体的に重々しい雰囲気が伺える扉。金で出来た縁やうねるような凹凸模様の所々に、丸い紅い石が埋め込まれており、少し薄暗く感じる場所でそれは光を放っていた。

「騎士団副団長アディル。あきなを連れてまいりました」

 アディルさんの声が乾いた空間に響き渡り、ゆっくりと扉が独りでに開け放たれていく。

「入れ」

 姿がないのにも関わらず、まるで耳元で言われたように響く声にぞわりと肌が粟立つ。

「あきな」

 アディルさんの手がそっと回されたのに気づき見上げ、そこには穏やかな表情に自然と口元が綻び、それから視線を真っ直ぐに見据えて部屋の奥へと歩みを進めた。
 私達がその部屋へ足を踏み入れてどんどん奥へ進んで行くと、その後で扉は音をたて閉じられた。コツコツ靴音を鳴らしながら、大理石の上に敷かれたレッドカーペットを歩く。数メートル進んだ所で私の瞳に映し出された光景に呆然と立ち尽くし、左右にゆっくりと首を動かしながら辺りを見回す。

「す……ごい。天井もこんなに高さが……」

 そう呟く目の前には、白い石で出来た太い柱の後に大きな窓――どんなに手を伸ばしても届かない天井の高さ、まばゆいくらいに輝く大きなシャンデリアがレッドカーペットの真上で一列に並び、全ての面積がどのくらいあるのかなんて到底私の脳内じゃ分からない程。それはまるで、幻想のお話を連想させる神殿のよう。
 少し冷たいと感じる空気に、体が小さく震える。でも何故なんだろう……心がとても穏やかに感じてしまうのは――。


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