君がいるから
「あきな。おいで」
数歩前へ進んでいたアディルさんの手招きに吸い寄せられるようにして隣に並び、レッドカーペットを再び歩き進めた終わりの先――。数段ある階段の上、股を開き肘掛に肘を着いてこちらを見据えながら座っている王様がいた。その傍らには、額に金の細冠を身に着けたギルスの長さんが金の装飾がある杖を着きながら立ち、そして既に王様の前に膝を着いて腰を下ろしている、白灰色の髪で分かる――この世界で今最も苦手な人物の後姿がある。
そうして、私は2人の間に挟まれる状態で立ち並び、アディルさんが慣れた動作で腰を下ろして片膝を着き、頭を下げながら王様へ向かい口を開く。
「あきなを連れてまいりました」
アディルさんの姿に、私も慌ててカーペットの上に腰を下ろし、正座をし浅く頭を下げるも、ふと視線を上げたら、自分の真正面にいる王様と目が合ってしまった。
慌てて頭を再び下げた所で、王様が『顔を上げろ』と声が掛けられ、頭をゆっくりと戻す。
「昨夜は、あれからよく眠れたか?」
「えっと……眠れたと思います……?」
「何故、俺に聞き返すんだ。変な奴だな」
微かに口端を上がる王様。
(あっ今の――昨日とは違う笑った顔)
私もそれにつられ『そうですね』そう言ってはにかんだ。
「ジン、そのような話ではあるまい。あきなよ。そなたにこの場所へと来てもらった理由は分かっておろう」
その微笑も束の間、ギルスさんの声でかき消されてしまう。
「お主は昨夜部屋から出てはならぬと、話を聞きはしなかったのか」
ギルスの長さんは目を細め、私からアディルさんへと移動させる。鋭い眼光に、きっとアディルさんが私に伝えなかったのかと勘違いをしているように思えた。
「違います! アディルさんはちゃんと私に伝えてくれました。だから、アディルさんは全然悪くないんです!」
「では、お主が勝手に部屋の外にいた騎士の目を掻い潜って脱走でもした――というのか」
「脱走なんてしていません! 部屋を出てしまったことは事実なので、それは謝ります。でもそれには理由が――」
「ほう、理由だと。話によっては、そなたには罰を受けて貰わねばな」
徐々にギルスさんの声音が低く冷たく変わっていく。
「さぁ、我々が納得するような答えを話してもらおうか」
低く問われる声に、私は太股に置いた拳を握って、王様へ視線を送り真っ直ぐ見据えて口を開いた――。