君がいるから
「約束を破ってしまい申し訳ありませんでした。こんなこと言って納得してもらえるか分かりませんが――私も何故龍の間にいたのか実の所分からないんです」
「分からない?」
私の言葉に反応する王様の傍らで、ギルスさんが再び口を開く。
「理由があると聞いてみれば、分からないじゃと? 我々を馬鹿にするのも大概にして頂こうか」
「馬鹿になんてしていません! 本当に自分でも何が何だか。でも1つだけ、部屋で……突然この指輪が」
左手を胸元まで上げ、もう片方の手の指で触れ続けて言葉にする。
「赤く突然光って、指が焼けるように熱くなって………光が急に強くなったかと思ったら、気づいたら何もない――暗闇の中にいました。とても居心地の悪い空間で、必死で怖さを抑えていた時に声が聞こえてきたんです」
「声?」
王様は膝の上に肘を乗せ、手の甲に顎を付けるように少し身を乗り出す。ここにいる全員の視線が私に注がれている。ちらっと隣を見ると、アディルさんが柔らかな表情で小さく頷いてくれたのを目にして、1つ深呼吸をし正面の王様を瞳に映す。
「はい。姿は確認することが出来ませんでしたけど、はっきりとその声は聞こえました」
「その姿なき声の主は、お前に何か言っていたのか?」
「……龍は蘇った……って。すでに終えた――時は満ちた、そうも言ってました」
私の口から言葉に、その場の空気が一瞬にして変わった気がした。王様の瞳が見開かれ、とても驚いている様子が窺える。傍らにいるギルスさんもまた同じで――。
「その後は、どうした。他には何か言っていなかったのか」
「えっと、また指輪が光って焼けるような熱さに耐えるのに必死で……たぶん、それ以上は何も言ってなかったと思います。それから……赤い光に包まれて、気づいたら龍の間にいました」
「今の言葉の数々、嘘偽りはないな」
ギルスさんが問う声は重く低く、私を刺すような視線に怯みそうになったものの、何とか耐え口を開く。
「嘘はついていません」
ギルスさんを真っ直ぐに見つめてはっきりと言葉にした後、口を一文字に結ぶ。互いに逸らすことのない視線の絡みは長いようで短く、ギルスさんが先に瞼を閉じその時間は終わりを告げる。
「嘘はついておらぬようだ」
ゆっくりと目を開き、王様へ視線を向ける。
「俺も気づけば、龍の間へと移動していた」
難しい表情を浮かばせて思案しているのか、額に掌をあて王様は呟く。
「シュヴァルツを覆った赤い光……。それは、あきなの指輪から放たれたものか――」
そう言うと、王様は突然立ち上がり、一段また一段と降り私の前へ辿り着くと、膝を折り曲げ地に付き私の手を取った。