君がいるから
突然、手を取られ触れる王様の手。私よりも大きくて綺麗な長い指、でもやっぱり男の人の手だと驚きで思考が停止しそうな頭の片隅で思う。
強い眼差しの漆黒の瞳に捕らわれ、その眼差しから離れられない。
「あの……王様」
「あきな。これは何処で手に入れた」
「手に入れたというか――これは……母から譲り受けた指輪です」
「そうか」
一瞬、顔を歪めた王様は私から指輪へと視線を落とし見つめた後、ゆっくりと手を離す。
「昨夜は怖い思いをさせてすまなかった」
「いえ……それは私が悪いのもあると思いますし」
「お前は何も悪くない。知らぬ間にあの場所にいたんだろ?」
腰を上げ私を見下ろしたと同時に、王様が微かに笑みを作った気がした。けれど、それは幻覚だったのか、真剣な顔つきで踵を返していく王様。
「王。お願いがございます」
背を向けた王様に凛とした声音が隣から発せられ、ここにいる全員が一斉に視線を投げた相手はアディルさんだった。
「お前が願いなどと言うとは珍しいなアディル。聞こう、その願いとやらは何だ?」
再びこちらに向き直った王様は腕を組み、地に伏すアディルさんを見下ろす。アディルさんは面を上げ、一度横目で私を見遣ってから王様へと目を向けた。
「はい。あきなのことでお願いが」
(――私?)
思いもしないアディルさんの口から出た言葉に驚き、目を丸くする。
「ほう。それで、あきなのことで願いとは?」
「恐れながら、あきなに自由を与えて欲しく思います」
「自由? 俺は別に牢に捕らえたつもりもないが?」
次々と交わされていく会話に、頭がついていけない。アディルさんを直視していると、形のいい唇が開く。
「老様の命令により、あきなは単独で行動する事は許されないとのことでしたが」
「そうだったな」
「城下町までとは言いません。せめて城の中だけでも、あきなの単独で行動できる許可を頂きたいと」
言い終え、深く頭を下げるアディルさんの長い綺麗な金色の髪がさらりと肩を滑り落ちた。