君がいるから
きっと不安気な表情を浮かべているんだろう私と、大きな真っ赤な瞳の彼女は眉を吊り上げながら睨みを利かせてくる。
「シェリー、あきなを頼んだよ」
そう女の子へ微笑み、お城へ踵を返そうとしたアディルさんの腕を強く掴み、細い腕が逞しい腕に絡みついた。
「あたしも一緒に行く!」
「シェリーはあきなと一緒にいて? まだ部屋までの道のりを覚えてないあきなを1人残すのは心配だから」
「ヤダ、ヤダ!! アディルと一緒がいい!!」
嫌、嫌っと首をぶんぶん左右に振って駄々を捏ね、頑として腕を離そうとしない女の子を困ったように眉を下げたアディルさん。
「シェリー」
「なに……? シェリーはアディルと遊びたいんだもん……」
「今日の夜はシェリーの為に時間を空けるから、ねっ」
シュンとなっていた表情が、アディルさんのたった一言でみるみる変わっていく。
「ホント!? 遊んでくれるの!!」
「あぁ、約束」
「わぁーい!! アディルー大好きー」
喜びをピョンピョン飛び跳ねて表現し、アディルさんの腕に再び抱きつく。そんな彼女に、アディルさんは微笑みを落とし、優しく頭を撫で上げる。
「シェリー。あきなと仲良くね」
「はぁーい!」
そう言うと、アディルさんはシェリーちゃんから腕を離し、私の元へと歩み寄ってきた。目の前に立ったと同時に肩に手を置かれ、ゆっくりと私の耳元に顔が寄せられる動作は自然体すぎて。
「あの可愛い顔は反則。赤くなる顔もとても可愛かった。シェリーが来なかったら、きっとあきなのこと」
『襲っちゃってたかも』耳元で聞こえる甘くて低い声が放たれる度に、皮膚に息が当たる。今、何が起こっているのか理解出来ずに体――思考までも硬直。
そんな私にアディルさんは毎度ながらの柔らかな笑みを浮かべ、背を向けて颯爽と去って行く。
(なに……今の……。今……何て言ってた? 襲……ちゃい……そう?)
ボッと顔から火が出そうな程に、一気に熱が全てを覆いつくす。まだ耳元に残るあの声が、幾度と無く繰り返される。遠ざかっていく背中が見えなくなる寸前に、顔を覆い力なくその場に座り込んだ。
「ちょっと! あんた!!」
荒々しい声音と共に、頭上に降ってきた怒号に指の隙間から覗き見上げた。