アリスのお兄様
1階に下りると香ばしいパンの香りがする。
食べる前に顔を洗おうと洗面所へ向かえば、そこには先客。
タオルに埋めた顔をこちらに向け、いつも以上の低音でおはようと言われた。
「おはよう、朔は毎朝眠そうだね。」
「いつも眠い。でも玲見てちょっと目覚めた、かも。」
あたしの双子の兄、三男の朔。
口数は決して多い方では無い。
それが女の子にうけるのか、昔から非常にモテる。
あたしにとっては大切な相方、上半身裸も見慣れたものよ。
「あいつ…杏は?」
「もちろん振り切ったよ。今頃リビングじゃないかな。」
「…お疲れ。」
顔を拭き終えたタオルを首にかけ、あたしの頭を撫でるとふわりと笑う。
長い前髪から滴る雫がやけに色っぽい。
「ちゃんと髪拭いて。風邪ひいちゃうよ?てかこれ髪とかした?」
「ん。」
「…ボサボサだよ。」
こんなにかっこいいのに、どうも不器用なところがある。
ちなみに裁縫や料理、絵はまるっきりダメ。
手櫛で整えてあげると、彼はくすぐったそうに目を瞑る。
「よし、かっこよくなった。じゃ洗面所使うね。」
すれ違い様に彼が言った言葉は、あたしの耳には入らなかった。
「まだまだ玲と釣り合わないよ。」
有栖川朔
・有栖川家三男の高校2年
・静かで色気のある美男子
・超がつく不器用野郎