アリスのお兄様
 


1階に下りると香ばしいパンの香りがする。

食べる前に顔を洗おうと洗面所へ向かえば、そこには先客。

タオルに埋めた顔をこちらに向け、いつも以上の低音でおはようと言われた。


「おはよう、朔は毎朝眠そうだね。」

「いつも眠い。でも玲見てちょっと目覚めた、かも。」


あたしの双子の兄、三男の朔。

口数は決して多い方では無い。

それが女の子にうけるのか、昔から非常にモテる。

あたしにとっては大切な相方、上半身裸も見慣れたものよ。


「あいつ…杏は?」

「もちろん振り切ったよ。今頃リビングじゃないかな。」

「…お疲れ。」


顔を拭き終えたタオルを首にかけ、あたしの頭を撫でるとふわりと笑う。

長い前髪から滴る雫がやけに色っぽい。


「ちゃんと髪拭いて。風邪ひいちゃうよ?てかこれ髪とかした?」

「ん。」

「…ボサボサだよ。」


こんなにかっこいいのに、どうも不器用なところがある。

ちなみに裁縫や料理、絵はまるっきりダメ。

手櫛で整えてあげると、彼はくすぐったそうに目を瞑る。


「よし、かっこよくなった。じゃ洗面所使うね。」


すれ違い様に彼が言った言葉は、あたしの耳には入らなかった。


「まだまだ玲と釣り合わないよ。」



有栖川朔

・有栖川家三男の高校2年
・静かで色気のある美男子
・超がつく不器用野郎


 
< 2 / 5 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop