”さよなら”なんて言えなくて
「勘違いやと思うから。」
自分に言い聞かせるかのように答える。
「何がやねん。」
「…信五の枕元に本が置いてあってん。」
躊躇する蒼。
一瞬で空気が変わる。
「その本にな。『骨肉腫』って書かれててん。」
うつむきやっとの想いで声にする蒼。
再び涙が溢れ出す。
「嘘やろう?」
引きつる声。
血の気がさっと引いていく。
「信五に何も聞けへんかってん。その本を見てしもうたことも信五は知らへん。」
震える声。
冷静になろうと必死に涙を堪える。
「なぁ。すばる。この話聞かんかったことにして…お願いや…。」
すばるを見つめる弱々しい視線。
一粒の涙が頬をつたう。