”さよなら”なんて言えなくて






「本、落ちてるで。」


本を拾い上げる蒼。
サッと血の気が引いていく。
握り締めている本を取り上げる信五。




「帰れや。帰ってくれ。」




急に怒鳴りちらす信五。
その場を動けない蒼。


「信五。その言い方はないやろう。」


椅子から立ち上がるすばる。




「わかるやろう。一人になりたいねん。」




手に力が入りしわくちゃなっていく本。




「…信五…。」


肩を震わす信五の姿にかける言葉を失うすばる。



「ほ…ほんまのこと聞かせて。」


涙を濡れた顔をあげる。




「お前が思ってる通りや。言いたくなかってん。そうやって泣くやろう。泣きたいのは僕の方や。」



蒼から目を逸らす信五。





「僕の…僕の方やねん。」


握りしめていた本を壁へと投げつける。
 


「帰れ。帰れや。」



濁った瞳。
冷たく吐き出される言葉。


「行こう。」


首を振り続ける蒼の肩を抱き病室を後にするすばると信五。
頭を抱え泣き崩れる信五。








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