”さよなら”なんて言えなくて
オレンジ色に染まる空。
湿気臭い生温い風。
鉄柵に囲まれた屋上。
両脇に松葉杖を抱えた信五の姿。
「どうしてや。どうして蒼をこさしてん。」
沈黙を破るかのように口開く。
「そんな別れ方はないんとちゃうん?」
信五の後ろ姿を見つめるすばる。
「じゅあ。どうしろって言うねん。どしろって。」
振り向く信五。
強く握られた拳。
「病気理由にするなや。」
冷静な口調で問いかかける。
「普通するやろう。死ぬかもしれのやで。死ぬかも…。」
震える声。
薄っすらと涙を浮かべ。
「そんなこと言うなや。死ぬって何決めつけてるねん。」
信五の胸倉を掴みかかる。
松葉杖が身体から離れ転がり落ちる。
「二度と言うなや。」
冷静さを失い感情的になるすばる。
「お前に何がわかるねん。」
すばるの手を振りほどく。
「怖いんや…もし…薬が効へひんかったら…この足を失うことになるねん。足だけやない。きっと蒼だって…。こんな僕を…。」
すばるから目を逸らす信五。
その肩は微かに震えている。
「信五。そんなこと…。」
かける言葉が見つからないすばる。
ただ黙って信五を見つめる。