”さよなら”なんて言えなくて





グランドに響き渡る笛の音。
ボールの行方をボーっと見つめる蒼。
その横にちょこんと座る裕。
抱えているボールが大きく見える。
   


「なぁ。姉ちゃん。信五は?」

蒼を見上げる裕。
   

「信五は暫くこうへんよ。」


グランドを見つめたまま答える蒼。
   


「ちぇっ。サッカー教えてやろうと思ったのに。」



ボソリと呟く裕。
   

「そんなこと言うてええんかな?信五に言っちゃうぞ。」

裕のオデコを軽くこつく。
  
 

「あかん。言うたらあかん。」



蒼の腕を揺する裕。
   

「信五って呼び捨てにしたことも言っちゃおうかな?」


悪戯に裕を見る。
   


「信ちゃんに言わんといて。ねぇ?」



上目遣いで蒼に懇願する裕。
   
「わかった。言わへんから。その手離してくれひん?」

慌てて蒼から手を離す裕。
   

「約束。」


小指を差し出す裕。
   

「はいはい。約束。」

小指を絡める蒼。
   


「嘘ついたら針千本やからな。ああ。すばるや。」


練習を終えタオルとペットボトルを持ち二人の元へと歩いてくる。



「裕。何呼び捨てにしてんねん。」

裕を追い回すすばる。
   

「すばる。すばるのアホ。」


調子に乗りすばるを呼び捨てにする。
 


「お前ええ加減にせいや。信五は呼び捨てにせんのに何で俺だけ呼び捨てやねん。」


裕を羽交い絞めにしくすぐるすばる。
くすぐったさにキャッキャッ声をあげる裕。






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