”さよなら”なんて言えなくて
鳴り響く着信音。
真っ暗な部屋に明かりを灯す。
携帯を手にするすばる。
「もしもし。」
タオルで濡れた髪をふく。
「病院は携帯禁止やろう。」
ベッドに腰をおろすとタオルを首からかける。
「わかってる。やから屋上から隠れて電話してるねん。」
受話器越しに聞こえる信五の声。
「頼みたいことあるねん。」
一瞬、時が止まったかのような雰囲気。
「何?蒼に二度と病院来るなとは伝えられひんで。」
ぶっきら棒に答えるすばる。
「そんなことちゃうねん。渡して欲しいものがあるんや。今から蒼に。」
雑音と共に聞こえる信五の悔しそうな声。
「今から?」
驚くすばる。
「ああ。頼むわ。」
「わかった。見返りはきっちり頂くからな。」
携帯をきると慌しく服を着替えるすばる。