”さよなら”なんて言えなくて
点滴が繋がれた腕。
紫色に腫れた注射の跡が転々と残る。
信五の手を握り転寝をする蒼。
眠る蒼の姿を切なそうに見つめる信五。
「ごめんな。」
ポツリと呟くと蒼の手を強く握り締める。
薄っすらと目を明ける蒼。
「寝ちゃってた。」
眠そうに目をこする。
「ええよ。眠いんやろ?もうちょい寝ぇや。」
上半身を起こすと蒼の頭をポンポンと叩く。
「起きる。」
伸びをする蒼。
「寝とってええのに。」
呆れ顔の信五。
「やって。信五が退屈になるやろう。」
「いやいや。退屈せんって。蒼の寝顔を見物しとるし。」
ニヤニヤしながら蒼をみる。
「何ニヤけてるん?」
「よだれの痕。」
口元を指しながら答える。
「嘘や。」
口押さえると慌てて鞄をあさる。
「どうせ食いもんの夢みてたんやろ?」
「見てひん。」
鞄から鏡を取り出すと口元をテェックする。
「ついてひんやん。」
信五を見上げる。
「やって嘘やもん。」
悪戯に笑う信五。