”さよなら”なんて言えなくて
看護婦や患者を避けながら早歩きで通り過ぎる。
乱れる呼吸にボサボサな髪。
見つめる先は信五の病室。
重く感じる足が病室の遠さを教える。
「信五は?」
病室の前で立ちすくむすばるに声をかける。
「大丈夫。今は眠ってる。」
平常心を取り戻したすばる。
「良かった。」
安堵する蒼の顔。
「お前は強なったな。」
弱々しく呟く。
「それなのに俺は…俺は…。信五に…。」
蒼から背を向け壁に頭をぶつける。
「強くなんかない。強くなんかないねん。」
すばるの肩に触れる。
「うちかて怖い。怖いんや。」
目を伏せる蒼。
ベッドの中声を殺し泣く信五。
閉じた目から溢れ出す涙が頬を濡らす。