”さよなら”なんて言えなくて
「やっぱり帰ろうや。」
車輪を握り車椅子を止める。
「急にどうしてん?」
ブレーキをかけ信五の前に座り込む蒼。
「…あ…足が痛い…。」
咄嗟に口から出る嘘。
目を伏せ蒼から視線を逸らす。
「嘘つき。」
その場から立ち上がると再びブレーキをはずす。
「何、人の視線気にしてるん?車椅子がそんなに恥ずかしい?」
強引に車椅子を押していく。
「何も恥ずかしいことちゃう。今の信五にとってはこれが足やねん。治るまでの足代わりやねんから。」
砂利道でタイヤがとられる。
傾く車椅子。