”さよなら”なんて言えなくて

   



「やっぱり帰ろうや。」


車輪を握り車椅子を止める。
   

「急にどうしてん?」


ブレーキをかけ信五の前に座り込む蒼。
   



「…あ…足が痛い…。」





咄嗟に口から出る嘘。
目を伏せ蒼から視線を逸らす。
   


「嘘つき。」




その場から立ち上がると再びブレーキをはずす。
   

「何、人の視線気にしてるん?車椅子がそんなに恥ずかしい?」


強引に車椅子を押していく。
   

「何も恥ずかしいことちゃう。今の信五にとってはこれが足やねん。治るまでの足代わりやねんから。」


砂利道でタイヤがとられる。
傾く車椅子。
  




< 49 / 50 >

この作品をシェア

pagetop