”さよなら”なんて言えなくて






腕で流れ落ちる涙を拭う蒼。
その様子にかける言葉も見つからず黙って蒼を見つめる。
沈黙の中、練習生の声と笛の音だけが存在する。
   


「…ご…めん。練習戻りぃや。」

顔をあげすばるを見る。
   

「戻れるか。お前に泣かれたら調子狂うやろう。」


乱暴な口調の中、優しさが残る言葉。
   



「ごめん。」




今度ははっきりとした声で謝る蒼。
  

 

「何があってん?その様子やと信五と喧嘩した訳やなさそうやし。」

蒼の横に改めて腰をおろすすばる。







< 9 / 50 >

この作品をシェア

pagetop