マザーリーフ
ふとここで会話が途切れ、潤が桃子を見つめた。
潤の大きな漆黒の瞳。
桃子はどきっとした。
こんなに近くで潤の顔を見るのは初めてだ。
桃子は慌てて話題を探した。
「伊師さん元気なの?」
「あーあの人は不死身だよ。去年、来日した時にあったよ。来日ってスターじゃあるまいし、普通に日本に来たよ。俺もちょうどこっちにいてさ。一緒に飲んだよ。相変わらずテンション高くて、こっちが疲れたよ。」
「まだシドニーにいるんだ。テンションの高さでは、潤負けてないよ。」
「嘘だろー。俺、あの人病気だと思ってるのに。」
ビールと料理が来て乾杯する。
アルコールが入ると潤はさらに饒舌になった。
飲むペースも早かった。
潤は大学卒業後、建設会社に就職、入二年目にして米子に転勤になり、米子では酒ばかり飲んでいた、と言った。
「あっちー、なんで俺ネクタイなんか締めてるんだろ。」
少し顔が赤くなった潤が、いきなりネクタイを取り、シャツのボタンを二つはずした。
潤の喉仏がまともに見えた。
桃子はその喉仏に男を感じて、恥ずかしくなり視線をそらした。
先月の同窓会の話をした。
結局、四次会まであり、潤は朝帰りしたと言った。
ひどい二日酔いだったと言った。
その四次会では「矢口くんに酔った勢いでめっちゃからまれた。」と言う。
矢口とは桃子は同じクラスになったことはないが、潤と同じサッカー部にいた子で、潤の仲間だ。
「なんて絡まれたの?」
桃子が笑いながら聞いた。
「あいつ、俺になんで卒業真近に引っ越すんだよーとかいってた。一緒に卒業したかったのにって。今更そんな事言われてもねー。第二ボタンあげなくてごめんねって謝っといた。」
そうだった。
潤は桃子たちと一緒に卒業しなかった。
その年の暮れ、いきなり潤は東京へ引っ越し、高校は東京だった。
千香の事故のしばらくあとのことだ。
「で、永瀬はどうなわけ?」
潤がまっすぐ桃子のほうを向いて言った。
桃子は少し酔った勢いでプリクラの件から愛人に呼び出されたこと、夫が出て行ったきり、たまに電話は寄越すものの、帰らないことを話した。
さすがに隆の『やらせないから』発言を話すのはやめた。
潤はうんうん、と話をきいてくれた。
「馬鹿な旦那だね。俺、結婚してないし、なんもわからないけど。永瀬のしたいようにするしかないけど、結論を急ぐなよ。」
潤も母と同じことを言った。
「うん…」
桃子はすっかり情けなくなってうつむいた。
「元気出せよ。永瀬。」
潤は優しい声でそういうと、左手を伸ばし、ジョッキの柄を握っていた桃子の手を覆う様に握った。
桃子は驚いた。
潤はどういうつもりなのか。
よく分からないまま、抗わないでいると、さらに潤は手に力を込めてきた。
潤の手は熱く、そのまま彼の体温を感じているようだ。
桃子は潤の手を払うつもりで自分の左手を伸ばした。
が、意思とは反対に、桃子の手は潤の手を更に包み込むように覆った。
しばらく沈黙が続き、潤が
「ここ、出よう。」と言った。
潤の大きな漆黒の瞳。
桃子はどきっとした。
こんなに近くで潤の顔を見るのは初めてだ。
桃子は慌てて話題を探した。
「伊師さん元気なの?」
「あーあの人は不死身だよ。去年、来日した時にあったよ。来日ってスターじゃあるまいし、普通に日本に来たよ。俺もちょうどこっちにいてさ。一緒に飲んだよ。相変わらずテンション高くて、こっちが疲れたよ。」
「まだシドニーにいるんだ。テンションの高さでは、潤負けてないよ。」
「嘘だろー。俺、あの人病気だと思ってるのに。」
ビールと料理が来て乾杯する。
アルコールが入ると潤はさらに饒舌になった。
飲むペースも早かった。
潤は大学卒業後、建設会社に就職、入二年目にして米子に転勤になり、米子では酒ばかり飲んでいた、と言った。
「あっちー、なんで俺ネクタイなんか締めてるんだろ。」
少し顔が赤くなった潤が、いきなりネクタイを取り、シャツのボタンを二つはずした。
潤の喉仏がまともに見えた。
桃子はその喉仏に男を感じて、恥ずかしくなり視線をそらした。
先月の同窓会の話をした。
結局、四次会まであり、潤は朝帰りしたと言った。
ひどい二日酔いだったと言った。
その四次会では「矢口くんに酔った勢いでめっちゃからまれた。」と言う。
矢口とは桃子は同じクラスになったことはないが、潤と同じサッカー部にいた子で、潤の仲間だ。
「なんて絡まれたの?」
桃子が笑いながら聞いた。
「あいつ、俺になんで卒業真近に引っ越すんだよーとかいってた。一緒に卒業したかったのにって。今更そんな事言われてもねー。第二ボタンあげなくてごめんねって謝っといた。」
そうだった。
潤は桃子たちと一緒に卒業しなかった。
その年の暮れ、いきなり潤は東京へ引っ越し、高校は東京だった。
千香の事故のしばらくあとのことだ。
「で、永瀬はどうなわけ?」
潤がまっすぐ桃子のほうを向いて言った。
桃子は少し酔った勢いでプリクラの件から愛人に呼び出されたこと、夫が出て行ったきり、たまに電話は寄越すものの、帰らないことを話した。
さすがに隆の『やらせないから』発言を話すのはやめた。
潤はうんうん、と話をきいてくれた。
「馬鹿な旦那だね。俺、結婚してないし、なんもわからないけど。永瀬のしたいようにするしかないけど、結論を急ぐなよ。」
潤も母と同じことを言った。
「うん…」
桃子はすっかり情けなくなってうつむいた。
「元気出せよ。永瀬。」
潤は優しい声でそういうと、左手を伸ばし、ジョッキの柄を握っていた桃子の手を覆う様に握った。
桃子は驚いた。
潤はどういうつもりなのか。
よく分からないまま、抗わないでいると、さらに潤は手に力を込めてきた。
潤の手は熱く、そのまま彼の体温を感じているようだ。
桃子は潤の手を払うつもりで自分の左手を伸ばした。
が、意思とは反対に、桃子の手は潤の手を更に包み込むように覆った。
しばらく沈黙が続き、潤が
「ここ、出よう。」と言った。