マザーリーフ
その時メールの着信音が鳴った。

潤からだった。

メールを開く。

[昨夜はどうも。楽しかったよ。
子供大丈夫だった?
突然だけど、俺の会社の保養所が房総にあるんだ。ドライブがてら一泊で行きませんか?]

一泊?
桃子は驚いた。

心臓がドキドキした。

クレジットカードの請求金額より驚いた。

冷静にならなければ。

とりあえず隆に電話する方が先だ。

仕事中で電話に出れないかもしれないが、一応電話をしてみた。

やっぱり出なかった。

桃子はクレジットカード会社に電話をしてカードの使用停止を頼んだ。

これで一安心した桃子は昨夜、ビアレストランで潤から栃餅とマザーリーフをもらったことを思い出した。

マザーリーフには小さな説明書きがついていた。

(トレーに水を張り葉っぱを浮かべてください。しばらくすると葉の淵からから小さな芽がたくさん出てきます。小さな芽が大きくなったら、土に植えて観葉植物として楽しむこともできます。)

早速、桃子は小さな皿に水を張り、マザーリーフを浮かべた。



愛菜が寝てから潤への返信のメールを書いた。

[昨日はありがとう。急に帰ってごめんね。
子供は大丈夫でした。房総行きたいけど子供がね…
あんまり預けてると親に怒られちゃう。]

すぐに返信がきた。

[一緒に来ればいいよ。大歓迎。
子供は何歳?チャイルドシートいるなら、借りるよ。]

愛菜も一緒に?

潤が何を考えているのか、桃子にはよくわからなかった。

桃子は悩んだ。

悩んだ末、桃子は房総に行くことにした。

隆がいなくなってから愛菜を遊びに連れていってやれなかった。

桃子はずっとママ友たちと会うのも避け、家に引きこもった。

ママ友の面白半分の噂の対象になるのは嫌だった。

遊びに行くのは桃子の実家だけで、愛菜が不憫だった。


「あっ…すごい、小さい芽が一杯出てる。」

テーブルの上に置いたマザーリーフの繁殖力は桃子を驚かせた。

マザーリーフは水を与えた途端、淵からどんどん芽が出てきた。
環境が合うのか見るたびに新しい芽が増えている感じだ。

その生命力の強さと豊かさに桃子は感心した。
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