マザーリーフ
疑惑
食卓にある鮭のムニエル、肉じゃが、小松菜のおひたしを見て、桃子はため息をついた。

せっかく作ったのに…。

今日は昼間、近くの幼稚園で未就学児の「ひよこサークル」があり、愛菜を連れて参加したから忙しかった。

サークルが終わっても、その後、公園に行き、ママ友たちの話に延々と付き合わなければならない。

夕方六時前にやっとお開きになり、そこから買い物し、調理し、てんてこ舞いだった。

[今日、めしいらない。]

夫の隆からメールがあったのは夜八時頃だった。

もうずっと隆はこんな調子で、桃子にはそれが何故だかわかっている。



「ママ、これパパ」

二週間ほど前、三歳の愛菜がそう言って桃子に手渡したものは、プリクラのシールだった。

部屋の何処かに落ちていたらしい。

プリクラは隆と茶髪の若い女が写ったものだった。

ピンク色の幼稚な字で
「だーい好き」
と書き込みがしてあった。


その夜、隆が風呂に入っている間、桃子は隆の携帯のメールをこっそり見た。

桃子は今まで一度も隆の携帯を見たことがなかったから、隆も油断してロックしておらず、テーブルの上に置きっぱなしだ。

履歴を見るとゆかりん、という名前が並んでいた。

これだ。

風呂場の隆が出てこないか、桃子は焦りながら、ゆかりんとのメールを見た。


[昨日はありがとう。最高の夜でした。ご飯も隆も美味しかった。ほんと、隆、テクすごいね!]

あまりの露骨なメールに桃子はめまいがした。

隆が風呂から出るまでにいくつか女とのメールを読んだ。


今夜もあの茶髪の女と会ってるのかもしれない…

ほんと馬鹿な夫だ。

30にもなって、三歳の娘もいるのに、あんな女とにやけ顏でプリクラだなんて。



いつかは飽きる。

それを待つしかない。

こういうことは結婚前にも一度あった。その時はやたらコソコソとメールしていた。

怪しいと思っていたら、桃子の妹から隆と女とのデート目撃情報のメールが来た。


[東京ドームに野球見に行ったんだけど、お兄さんが女の子といたよ。向こうも私に気が付いて口止めされたから、よろしくね。]

親切なのかよく分からないメールだ。

その時は静観しようと思っているうちに、すぐに相手にフラれてしまったようだった。


隆の逆ギレする性格からいって、責めるのは逆効果だ。

桃子はそう思いながら、マガシンラックから一通の葉書を取り出した。


それは今日届いた中学校の同窓会の案内通知だった。


一の森中学第15期生同窓会

日時:2012年8月25日 18時30分

場所:横浜サファイアホテル


「先生方もお呼びしています。」

葉書には、そう書かれていた。

卒業以来、初めて開かれる学年全クラスの同窓会だった。

会費7000円は高いと思うが、ホテルで開かれるので、仕方ないのだろう。

桃子は出席に丸をした。


潤は来るのかな…


片付けの済んだテーブルに置いた葉書を見つめながら、桃子は思った。

潤と会ったのは、9年前、偶然にシドニーで出会ったのが最後だった。
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