ＷＡＬＬ

「東 冬矢(ヒガシ トウヤ)くん……その彼の名前。成績優秀でスポーツも出来て……明るく社交的だったから人気者で、学校でも有名だった……」



佐藤は、そう話を続けた。



「死んだって……何があったの？」




「それが事故だったらしいんだけど……」




「らしいって……？」




「さあ……私にもわからないの。中学三年の夏休みが終わって始業式の時……そのことが知らされて、生徒達はショックを受けたんだけど。先生達は、事故死だったとしか……。その時にはお葬式も終わっていて、知らされていたのは、ほんの身近な人だけだったみたい」




「ふーん……じゃあ、あの來中さんや神海くんなら、知ってるのかな？」



稀咲は、教室の中の巡を見ながら、そう聞いた。




「当時もみんなそう思ったみたい。特に巡……來中さんは、東くんと付き合ってるって噂があったぐらいだから……東くんのファンだった娘達から事情を聞かれて困っている姿を見たことがあるわ。でも、それから程なくして來中さんは転校してしまった。その内に、三年生は受験やらで忙しくなって、次第に話題にはならなくなっていったの……」




「そう……」



稀咲は、唇に人差し指をあてながら、何やら考えている素振りを見せてから……



「ごめんね。ありがとう」



と、佐藤にお礼を言った。



佐藤が去り、一人廊下の壁にもたれかかる稀咲は、興味深気な表情を浮かべる……。





(なにか色々ありそう……ね)