WALL
「神海くんはね……」



両手を芝生につき幾分、視線を上げながら稀咲は話し始め……



和哉は、頬杖をつき顔を背けたまま、それを聞く……。




「……他の人とは違って見えるの。クラスでも打ち解けず、いつも何かを考えてる姿には、どことなく影を感じさせる。きっと、いろいろ経験していて回りよりもずっと大人……たぶん私と同じだと思うの」




「…………」




「恋愛もそう……クラスの奴等は、『誰がカッコイイ』だの『アイツを狙ってる』だの……そんな話ばかり。私はそんな幼稚な恋愛、もうたくさんなの。散々してきたから飽きちゃったわ。ねえ……神海くんもそうでしょ?」



稀咲は、グッと和哉に顔を寄せる。




すると、和哉はポツリと言う。



「俺は……ほぼ……ない」




「ほぼ……?」




「じゃあ」



和哉は立ち上がり校舎へと歩き出す。




「ちょっと! 話はまだ……」




「それとな……」



足をとめ背を向けたまま、和哉は言う。



「自分は経験豊富です……なんて自慢してる奴は、大人とは言わないと思うけど」




そう言われ稀咲は、明らかに不愉快さを表情に出す。


「なによ! アンタって、ただ暗いだけの人見知り野郎みたいね。あーあ、話かけて損した」




「授業……始まるよ」



振り向かず、スタスタと歩いてゆく和哉……。




その背中を睨みつけながら、稀咲は吐き捨てる。



「アイツ……気に入らない」
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