WALL
「しっかし、どうしてお前がモテるのかねー」



小太郎が不意に呟いた。




「? 誰がモテるって?」



和哉は、不思議そうに聞くと……




「お前だよ! お前! 神海和哉って仏頂面の男のことだよ!」



小太郎は、そう念を押しながらポカンと和哉の頭を叩いた。




「ふざけんな! いったい俺のどこがモテるって言うんだよ!」



怒りながら和哉は、仕返しとばかりに、小太郎の頭に拳を振るうが……小太郎は、それを鮮やかにかわした。



和哉は勢い余って、前につんのめる。




その姿を眺めながら、小太郎は嘆くように言う。



「あーあ……こんな、無愛想でドジで暗くて天然で人見知りでケチで、オマケに[ピー]――な男がねぇ」



「オイ……最後のは取消せ。あと、ひとつの欠点を言い方を変えて何度も言うな」




「だってさ……うらやましくて」




「だから……いつ俺が――」




「音芽稀咲」



和哉の言葉を遮って、小太郎は、その名前を出した。




「アノ女がどうかしたか?」




「さっき聞かれたよ、お前のことを色々と」




「ふーん。で、なんて答えたんだ?」




「大体は、さっき言ったのと同じ――」




バシッ!




和哉のグーパンチが、今度は間違いなく小太郎を襲う。




「くぅ……っ」



頭を押さえてうずくまる小太郎に……和哉は淡々と、こう言った。




「アノ女はな……みんなの注目を独り占めしたいだけだよ。だから、自分になびかない奴が気に入らない……それだけだろ」




「そうかなあ……?」




「そうだよ。だから、そんなことでイチイチ人をうらやましがってんじゃねーよ」




「でもさ。カズヤには、美都丘霞もいるし」




「美都丘? ああ、俺の隣の……アイツがどうかしたか?」




「…………」



小太郎は、掃き溜めのゴミを見るような冷たい視線で和哉を見据えた。




「な……なんだよ?」




「イヤ……いい。人間らしい感覚をもたない朴念人と、これ以上話しても……」



「?」



和哉は、小太郎の態度に首を傾げていた。
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