WALL
「えー、來中は二年前まで平良市にいたということだ。顔見知りもいるんじゃないのか?」



臼田が、そう話を向けると……




「あ……やっぱりそうだよね。私、中学の時、隣のクラスだった」



「私も平良二中だったから……でも、凄く綺麗になったから一瞬わからなかった」




数名の女子が、そんなことを口にした。




巡は、その娘達に向け笑顔をつくると……



「改めてよろしくね。顔見知りがいてくれて私も心強いです。ちょっと事情で姓が以前と変わってますが……」



そう言った時、巡は少し声のトーンが低くなる。





(そう……俺が知ってるのは……桜井 巡だった)



和哉は二年前の巡の顔を思い起こす……。





(事情ねぇ……つまりは親の離婚でしょ)



稀咲は、醒めた表情で巡を見る。





「他の皆さんもどうかよろしく。早く打ち解けられるように頑張ります」



今後は明るい声に戻ると、巡るはもう一度、深く頭を下げた。





パチパチパチ……




新しいクラスメイトに一同が歓迎の意を示していた。




「まっ、仲良くやってくれ。じゃあ……アソコの空いてる席に座ってくれ」



臼田が指した席は……美都丘霞の後ろの席であった。




「わかりました」



巡が、その席へと歩を進めると……




自分の方に歩いてくる、その姿に焦りを感じた和哉は、思わず顔を伏せていた。



その横を通過する刹那……巡はピタリと足を止める。



そして……





「まだ下を向いたままなの……ね」





小声でポツリと言った。





(? 今……なにか……?)



和哉の隣では、霞が不思議そうに巡と和哉を見る。





「!?」




離れた席では、稀咲だけが二人の違和感を察知する。




そして……和哉は……





机の上の両の拳をグッと握りしめ、必死に震えをこらえている……。





(なぜ……今になって……俺の前に現れた?)
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