銀杏の下で









時は、過ぎていく。




光太郎が待ちくたびれようが

智恵子の歯車が
拍車をかけて壊れていこうが。





その流れは
恐ろしいほど万人に平等で

時として、残酷だ。






……






あたしは、ここから動けない。


あの人を失った

この、悲しみの地点から


いまだ、一歩も踏み出せない。



ここで、只

あの人の好きだった本を読み

あの人の好きだったベンチに座り

全身をあの人でいっぱいにして

うずくまっている、だけ。





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