銀杏の下で
神様、これは
あなたが与えてくださった
チャンス、なのでしょうか。
………
その名の通り
光太郎は、
精神を病んだ智恵子にとって
唯一、の……“光”であった。
そう、なら。
それ、ならば…―
滑り落ちた図書の貸出カードを、彼が拾う。
そこに記された名前を見て、その瞳がひときわ強く輝く。
眩しい、くらいの微笑みで。
「……伊藤、“智恵子”、さん?」
これを運命、と呼びたくなる
この感情は、何だろう。
「…運命、なんて便利な言葉を安易に使うのは嫌いです。が……、僕が光、君は智恵子。信じたくなりますね、運命という言葉を。」
そう鮮やかに言い放った“光”が
果てのないあたしの暗闇を照らして、一筋の道を作った。
時間の動く、音がする。
世界が、色を取り戻す。
「……立って、歩きませんか。」
心の震えた、初秋の午後だった。
【了】