夜明け前
「俺ちょっと電話〜」
そう言ってリビングを後にして、向かう先は壊れそうな心を抱いたお姫様のもと。
少し探せば、廊下の先にある大きな出窓の上に、膝に顔を埋めて座っているのが分かった。
「お姫様」
そう声をかければ、母親によく似た大きな瞳をこちらへ向ける彼女。
その瞳は真っ赤になっていて、涙を必死に堪えている様子が切なかった。
「…ちーちゃん」
あったばかりの俺をそう呼んでくれる気遣いに、つらい気持ちを押し隠して笑う姿に、彼女達の生い立ちが垣間見えた。
「…笑わなくていい、つらい時は泣いていいんだよ?」
「…ううん」
苦しそうに笑って、首を横に降る彼女。
「それはどうして?」
「………迷惑、かけちゃうから」
少しの沈黙の後、彼女が小さな声でそう言った。
「迷惑?」
「…私、足手まといになってる、邪魔になってるの…」
途切れ途切れに話す彼女は、遠くを見るような様子で、唇を噛み締めていた。
「…それを、誰かに言われた?」
「…………」
無言は、肯定。