夜明け前
水をかけられて、憎しみをぶつけるような視線を浴びせられて、ひどい言葉を投げつけられる。
その全てが、彼女の心を深く傷つけた。
「…足手まといだなんて、邪魔だなんて思わないよ」
「っ、嘘だもん!だって…私、いつも周りの人に可愛くないって、なにも出来ないって…、だから、さくにも、母様にも迷惑かけてばっかりで、母様が死んでからは余計に、さくに甘えて、自分のことしか考えてなかったっ」
「姫、…珠花ちゃん」
ひどく取り乱し、つらそうに言葉を振り絞る彼女。
「…私、どうすればいい?どこにいたらいい?私がいたら、みんな不幸になる、っ、私なんて、いない方がいいっ、」
ぱちん
全く力は込めなかったけれど、彼女の柔らかく白い頬を、打ってしまった。
いない方がいい?
―あの人が、命を賭けて、全てを捨てて守ったのに。
驚いた様子で俺を見つめる彼女にこう言った。…どうか、分かって欲しい。
「…そんなこと、冗談でも口にしてはいけない。君を産んだお母様は?君を大切に思う、お兄さんは?…伝えないとわからないし、聞かないとわからない、でしょ?」
そこで、必死に押し止めていた最後の砦、…彼女の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。