夜明け前
涙を流す彼女に、優しく語りかける。
「今の、珠花の素直な気持ちを話してごらん」
「っ、でも、」
嗚咽を堪えながら、不安な表情を見せる彼女。
「大丈夫。お兄さんも奏音も、珠花の気持ちを知りたいって思ってるよ。足手まといだとか、邪魔だなんて思わない。むしろ頼って、信じて欲しいんじゃないかな」
「…嫌いに、ならない?泣いたりして、嫌になって、迷惑って思わない?」
「もちろん。大切な家族でしょう。…それにお姫様の涙は可愛いから、全然平気。俺はね」
そう言って、彼女の頬につたう涙を拭う。
「…ふふ、ぶさいくな泣き顔なのに、可愛いの?」
くしゃりと、泣きながら笑う彼女が可愛くて、つられて笑う。
「ぶさいく?姫は可愛いよ。俺の中で一番だね」
「私が可愛い?…愛想が悪いって、よく言われるよ?」
「そんなことない。それは見る目が無いだけ」
「ふふ、…ありがとう」
少し落ち着いた様子の彼女に、ホッとする。
…本当は、女の涙を可愛いだなんて思わない。
どうでもいいし、面倒。
いつもそう思うのに、涙を流して震える少女を放っておけなかった。
それはきっと、あの人の娘だから。
この時は、そう思っていた。