夜明け前
怖いものなんてなかった。
母に守られて、幸せだった幼い頃。
たった一人で、16歳という若さで私と朔を産んだ母。
いつまでも、少女のように愛らしい人だった。
『双子だって聞いて、すごくわくわくしたの。賑やかだろうなって、どんな子たちだろうって、待ち遠しかった。だから、二人に会えたときは、子供みたいに泣いちゃった』
そう言って、優しく笑った母。
『朔乃と珠花が私の宝物』
そう言って、抱きしめてくれる母が大好きだった。
仕事で忙しかった母と過ごす時間は少なかったけれど、疲れていても笑う母を見れば寂しいとは言えなくて。
いつも朔と仕事から帰って来た母に、べったりとついて回って。
母がトイレから出てくるのをドアの前で待ってたこともあった。
そんな私たちに、いつだったか母はこう言って。
『ごめんね、…許してね』
珍しく泣きそうな顔で笑うから。
いい子でいよう、母様を笑わせよう、と朔と約束したのを覚えてる。