夜明け前
二人の心に鍵がかかってしまわないように、固く閉ざされてしまわないように、恐る恐る話しをしていたから、珠花のこの反応には驚いた。
「…あ、あぁ、えっと」
だから、ぐっと構えて慎重に話しをしていたから、思考の切り替えを素早く出来なかった。
「…いいのよ。会っていいの」
そうしてパニックっていると、聞こえてきた翔子さんの声。
―そうだ、珠花が目覚めたって呼んだんだった。
それも随分前だ。
…話、聞いてた、よな。
「翔子さん…」
そう名前を呼びながら彼女の方へ振り返れば、彼女は俺を軽ーく睨んで、こう言い放った。
「…遅いのよ。もっと早く言いなさいな。世話が焼けるわね、姉弟揃って」
そう言うのは、彼女の優しさ。
「…朔乃くん、本城のお家に行きなさい。私が言ったことは気にしなくていいの」
「…翔子先生…」
「いつでも会えるし、ほら、携帯買ってあげる、そうすればいつでも連絡できるわ。ね?」
「…翔子先生」
「…なぁに?珠花ちゃん」
「…電話したら、女の子の悩み事、聞いてくれる?」
「…ふふ、もちろん。美味しいスイーツ食べながら、でしょう?」
本当に愛しそうに、二人を見つめるこの人は、俺達家族よりも傍で姉を見守り、姉を知る人。