わたるんといっしょ


二度も聞かない性分たる胡弓が、指環を閉じた。


必然、開かれた刃先も閉じるわけだが――


「……、え」


渉の首に触れた瞬間に、刃先から砕けた。


「え、ぇ……あ?」


狼狽えてはいるものの、まだ事を直視できないと胡弓が持っていた鋏を落とす。


鋏が、砕けた。


「あ、あ、あぁっ」


死神の証とも言えよう仕事道具が砕けるだなんてあり得ない。だからこそ、何かの間違いだと、馬鹿になった頭を叩いて、また前を向くも――より見たくないものを見てしまった。


砕けた鋏を踏みしめる、“影法師”。


黒い陽炎、ひしめく羽虫の群れ。例えは複数でも、総じて、気味が悪いと思えよう不可視であったものが――


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