黄昏バラッド
「悪いかよ?俺はあいつの曲で、あいつの歌でベースがやりてーんだよ」
それを聞いた尚はくわえていたタバコを床に落として、クスリと笑ってみせた。
「だからお前は今こんな場所でカフェなんてやってんだろ?理想だけじゃ夢は叶わねーよ」
「俺たちのバンドはまだ死んでない。夢だって終わってねーよ」
「ぷ、ははは!まだそんなこと言ってんの?そんなんじゃ歳だけ取って自慢のベースが弾けなくなるぜ」
「……っ」
鉄さんの手がスッと離れた瞬間に、尚はキャップとサングラスをかけた。
「その金は前払金だ。また後で来るから考えといてくれよ」
尚はそう言ってサンセットを出て行った。
シーンと静まり返った店内で、だれひとり口を開こうとしない。床にはお金の入った茶封筒が虚しく落ちていた。
「悪い。ちょっと裏で休むからお前らで店開けといて」
鉄さんはなにかを考えるようにスタッフルームへと消えた。
「と、とりあえず店開ける?だれか準備中の札取って来いよ」
「この空気で開けるの?俺、鉄さんの気持ち考えるとあいつ殴りたくて仕方ねーんだけど」
従業員たちがそれぞれの想いを口にする中、私もそれに参加してみる。
「あの……さっきのイーグルの尚ですよね?」
「そーだよ。あいつ売れてるからってでかい顔しやがって」
私がさっきの会話で引っ掛かったのはひとつだけ。
「もしかして、尚……尚さん?が昔入ってたバンドって〝トワイライト〟って名前ですか?」