黄昏バラッド


そのあと結局、店は普通に開店した。

お客さんも入りはじめて、いつものサンセットの雰囲気。ひとつだけ違うのは鉄さんがスタッフルームに閉じこもったままだということ。

私は食器を洗いながら、さっき聞いたことを思い出していた。


――『そうだよ。トワイライト。ドラムの尚、ベースの鉄、そしてギターボーカルの亮』

『スリーピースバンドなのにめちゃくちゃすごくて、あの頃はみんなトワイライトの曲を聞きに来てたもんだよ』

『色んな所からスカウトがきてて俺らはてっきりプロになるんだと思ったらいきなり解散』

『解散っていうか亮が歌わなくなったんだろ?なんでかは知らないけど』

『あの頃デビューしてたらトワイライトはイーグルよりも上に行ったよ』

『もったいねーよな。特にギターボーカルの亮。あいつは天才で今でも作曲家として欲しいって言われてるぐらいなのによ』


――ジャァァ……。

私の手は止まったまま、水道の水だけがうるさく蛇口から出ていた。


やっぱりイーグルの尚はトワイライトのドラムだったんだ。

ふたりの会話にでていた〝あいつ〟はきっとサクのこと。


トワイライトが活動をやめて5年。

それが短いのか長いのか分からないけど、そんなすごいバンドをサクが抜けた理由はなに?

歌を捨てたサクが今ひとりで歌う理由はなんなんだろ……?
< 102 / 270 >

この作品をシェア

pagetop